蒼天の星

十四、地上の人間




 テツ・ヤナギは、トルクとケシルの乱入のせいで修羅場と化してしまった駅で仲間の手当をしていた。
 襲撃した列車の乗客を解放し、自分たちの仲間の手当に専念していた。
 テツの周りには、たくさんの包帯の巻かれた人間が横たわっている。幸い、自分の仲間からは死者は出ていなかった。
 自分が侍らしていた少女、ブロンドの髪をしていた少女は、美しい髪と衣服の半分を真っ赤に染めてテツのそばに横たわっている。
 銃弾の跳躍の嵐の中、彼女はテツのことをかばって怪我を負ったのだった。彼女は苦しそうに息をするたびに、ぜいぜいという空気の漏れるような音が聞こえた。
「まったく、ケシルの野郎……」
 テツは少女の髪に手をやり、顔にかかった前髪を払う。少女の目がテツの方を見た。
「……だいじょうぶ、ですか?」
 かろうじて聞き取れる程度の声で少女が呟く。テツよりも少女の身体の方が明らかに傷が重いというのに、少女はテツの身体を心配していた。
 テツはその思いを受け止め、深くうなだれた。
「やめとけばよかった。俺たち『強襲兵団』は武器を持つべきじゃなかった。リーダーになるために、俺は『大厄災』前の武器庫を開放した。やるべきじゃなかった。こんなことになるのなら……」
 横たわる少女が、ゆっくりと手を持ち上げ、テツの頬に触れた。テツはその手を両手で包んだ。
 少女の手は冷たかった。
「……あなたは、なにも、わるくありません。いつかは、武器を持った指導者があらわれるのは、……予想できました。たまたま、あなたが、運命にえらばれただけです。すべて、この世界がわるいのであって、あなたがわるいのでは――」
 少女の手の力が抜ける。肘がくたりと曲がった。
「おい、しっかりしろっ。おい……」
 テツは激しく少女の体をゆするが、少女は動かない。
「おいっ!」
 テツは少女の口に手をかざす。
 少女は息をしていなかった。
「くそっ」
 テツは地面をこぶしで殴りつけた。地面に血の跡がつく。
「この世界に、満足な医者がいれば。子供を助けてくれる大人がいれば。『十八年の一生』さえなければっ!」
 テツがたたき付けている地面の上に、影が覆った。影の元を確かめようと、テツは顔を上げる。そこには、全身に青いコートをまとった『魔法使い』のような風貌の人物がいた。逆光で顔は見えなかった。
「『十八年の一生』から、逃れたいですか?」
 影が言う。テツは激しくうなずいた。
「ならば、私たちを手伝ってください」

 以前、トルクが訪れた都会。
 カイは、『シティ』が貸してくれたホバーボートに乗っている。地磁気に反発して浮上するのだが、それは驚くほど揺れなかった。
 トルクがここを訊ねた時と同じように、この街には喧騒があふれていた。
 背の高いビルの間をぬって、人が流れている。おのおのが、おのおのの行きたい所へと向かうさまは、やはり川の流れのように見えた。
 カイは上空からこの様子を見下ろしている。
 彼のいる高さにはビルはなく、太陽が本来の光を存分にふりまいている。
 小さな人間という生き物が、大きなビルの隙間で生活している。大きなビルは、巨大な大地の上に建っている。巨大な大地は、さらに大きな球体の一部だ。球体は、太陽に比べれば無力な存在だとカイは思った。
 半球状の窓を開き、椅子の上に立ち上がる。座席に備え付けられたマイクを手にとって下を見下ろした。
 だれ一人、カイがそこにいることに気付いていなかった。
「おいっ。いい話があるぞ!」
 カイの声が、『シティ』のオーバーテクノロジーで増幅され、ビルの谷間の隅々にまで行き渡った。ビルはその巨大な音を反響させた。
 川の流れが止まる。その中の一人が、カイが空中にいるのを発見した。その一人が指差す方向を、一斉に街の通行人が見る。
「『十八年の一生』を克服したいかっ!」

 ケシルは、シュルツの店にいた。
 動くものがいない店の中の床は、沈降した塵で覆われている。塵が床を滑らかに見せていた。
「何か、役に立つものはないのか?」
 ケシルは、床の金属物体を蹴った。その衝撃で、床に降り積もった塵が舞い上がる。太陽光が遮られ、視界が覆われ、何も見えなくなった。ケシルは粉塵を吸い込んで咳き込んだ。
(オルマティロッド、赤外線視界)
(了解しました)
 ケシルの持つ青いオルマティロッドが震える。杖が淡い光を放ち、世界を赤く変えた。
 ケシルは塵をもろともせずに、あたりの物を探した。
 部屋の隅に、目当てのものがあった。
 片手でそっと摘み上げる。淡い赤い光の中で、ケシルはその紙切れに書かれた内容を読んだ。
「これのようだな。はたして、この名簿の中の何人が今も生きているのか」
 ケシルは紙切れを綺麗に四つ折りにし、ポケットに突っ込んだ。オルマティロッドに、書かれた内容を記憶させるのも怠らなかった。
 きびすを返し、出口へと向かう。


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創作時期 July 2001 改稿時期 April 2003

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