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. 窓の外は、白い絵の具をバケツでひっくり返したようだった。 雪がしんしんと降り、病院の中庭を埋め尽くしている。 雪だるまが作れそうだった。 私は病院のベッドから窓の外を眺めている。 最初にぎゅっと握って小さくてかたい雪玉を作って、それを体温でほんの少し溶かして、それを地面に転がす。 転がっていくうちに雪玉は大きくなる。 私の頭と同じくらいの大きさの雪玉ができたら、次はからだを作る。一つ目より大きな物を作って、できあがったら一つ目を上にのせる。 頭にバケツをのせて、木の枝とかを使って手や表情を作ったら完成。 ああ、外に出て遊びたい。 あの雪、多分病気がわるくなってしてしまうほど冷たいのだろうけど、丸めてみたい。 けど、いつもお医者さんと看護婦さんに止められる。 ――昨日の会話を思い出してみる。 『あっちゃん、外に出たいなんて言っちゃいけないよ。雪だるまをつくろうなんて考えちゃいけない。あっちゃんの小さな手じゃ、雪玉なんてつくれないよ。それに、あれは雪だるまを作るのに向いてな……』 『小さい手でも、転がせることはできるもん。ねえ、外に出して。病気が悪くなってもいいの』 『そんなこと言っちゃいけません。あっちゃんの病気が悪くなったら、みんなが悲しむでしょ?』 いつも、看護婦さんは、『みんなが悲しむからだめ』って言う。 病気が悪くなったって、死ぬのが早くなるだけなのに。 みんなは退院したら何がしたい?って、聞くけど、それが嘘だって事は直感的に知ってる。 みんなその話題をするとき一瞬悲しそうな顔をするから。 死にたくない。 私、まだなんにも楽しいことしてない。ずっと病院の中しか知らないのは、嫌。 どうせもうすぐ死ぬんだから、楽しいことしたっていいじゃない。 ――もう、昼だ。 何故か、今日は朝も昼も一度も看護婦さんもお医者さんも来なかった。 ゆっくりと私は起きあがる。 今日はなんだか調子がよいみたいだ。胸が苦しくなったり、息がぜいぜいしたりしない。 誰もいないなら、もしかしたら、中庭に行けるかもしれない。 ベッドから降りて立ち上がるとさすがに少し気持ち悪くなったけど、歩けないほどじゃない。 私は中庭に向かった。 . 寒い。中庭は私の予想以上に寒かった。 入院着の上に何か羽織ってくるべきだったかも。 私はサンダルで雪の上に立っていた。足がとても冷たい。 けど、これが雪なんだ。雪が冷たいのは当たり前。 ――よし、雪だるまをつくろう。 手のひらで雪をすくう。両手でかき集めて、にぎる。すぐに手のひらにころころできる大きさの雪玉ができた。 それを地面に転がす。 雪玉は雪の上を転がっていく。次第に大きくなりながら…… 「あれ? 大きくなってない」 雪玉は最初に作ったときと同じ大きさで、雪の中にぽつんと置かれてる。 よくわからなかったけれど、私は最初の大きさが小さすぎたんだと思い、ぺたぺたと雪玉に雪を貼り付けた。 ――だいたい1時間後。 私の手は赤くなっていた。たぶん、冷たいものをずっと触っていたからだと思う。 心臓がなんだか苦しい。息も乱れてる。 病気、悪くなっちゃったかな……。 けど。 私の目の前には雪だるまがある。 私の顔と同じくらいのからだをした雪だるま。帽子も目も手もない雪だるま。 結局、雪があんまりくっつかなかったし、バケツを帽子がわりにするにはこの雪だるまはちっちゃすぎる。 けど、雪だるまは雪だるまだ。 私はじっと雪だるまを見つめていた。 ――よく見えなかった。 なんだか視界がぼやけてきてる。頭がふらふらしてきてる。 遠くでお医者さんが大声を出しているのが聞こえる。ちょっと遠すぎて何を言っているかわからない。 誰かが私の肩を抱く。沢山の人がまわりにいるみたい。喋っている人の声が少し聞こえた。 「こんなに死の灰に触ってしまって……。早くあっちゃんに放射能防護服を! 早くしないと手遅れになる」 私は雪だるましか見ていなかった。 私は咳き込んだ。引っかかるような、壊れているかのような咳き込み方。 雪だるまに目ができた。 それは私の血だった。 |