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. 幼稚園からの帰り道、僕がのんびりと歩いていると、進行方向に誰かがいるのが見えた。 けい君のおばさんとめぐちゃんのおばさんだ。道ばたで話しているみたいだ。 僕は電柱の裏に隠れようとした。けい君とめぐちゃんは好きだったけれど、おばさん方は好きじゃなかったからだ。 電柱の裏に隠れようと急いで動いたとき、瓶が足に当たって、大きな音を立てて道の中央へと転がった。 気づかれた? 僕は身体を硬くする。 僕は、おばさん方が音に気づいてこっちへ来るんじゃないかと、びくびくしながら電柱の裏に隠れていた。 僕はゆっくりと電柱から顔を出す。おばさん方は話に夢中で僕の事に気づいていないようだ。 僕は電柱の裏からおばさん方の話し声を聞いていた。 「うちのめぐ、もうそろそろ幼稚園卒業なのよね。最近の幼稚園は送り迎えもやってくれるからすごく楽なんだけど、一定期間しか預かってくれないのは不便よ」 「そうよね。短すぎるわよね。幼稚園に入る前と比べれば確かに成長して少しは幼稚じゃなくなっているんでしょうけど、それでもまだ幼稚なのは変わりないもの。そんな幼稚な人間の相手をするのはすごく疲れるし、時間の無駄」 「そうそう。あと十年くらい預かって欲しいわ」 「あはは」 あのおばさん方はどのくらい喋っているのだろうか。 あのおばさん方があそこにいるかぎり僕は家に帰れない。 僕の家への道は、この道を通る方法しか僕は知らなかった。 おばさん方の頭にうっすらと白いものが覆っているのが見える。 多分、あまりにも同じ体勢で話し続けていたせいで埃が積もっているのだろう。 僕はどこかで時間をつぶしてから帰ろうと思い、おばさん方に背を向けて歩き出した。 「ところで、あの子の噂知ってる? ひろ君のこと」 「あ、あれでしょ、あれ」 僕の足が止まる。体の向きはそのままで後ろへと下がり、電柱に背中をくっつけた。くるりと体を回しそっとのぞき込む。 ――それは僕についての話題だったのだ。 「いまどき珍しい子よね。見た目はうちのめぐや、あなたのけい君と同じように見えるけど、あれで幼稚園の中で一番幼いんだから」 「あの子とうちのけいを一緒にしないでほしいわ。けいは幼稚園にずっといて、あんな子と比べれば成長の度合いが違うのよ」 「そうね。中身は全然違うわ。けど、見た目は同じに見えるじゃない」 「そう? 見た目だって違うわよ。うちのけいとは全然違う。あの子は体つきが幼すぎる。見ればすぐに最年少だってわかるわよ」 「そうかなあ、見た目も同じように見えるわ。私には」 二人はけんかしているのだろうか。僕にはわからなかった。おばさん方がけんかをするのを見たことがなかったから。 僕は、けいくんや、めぐちゃんとはけんかをする。だが、おばさん方とはけんかをしない。 勝てないからだ。僕にとっておばさん方はとても大きなもので、僕の理解を超えたものだ。その二つがいま、僕についてで言い争っているように見える。 あれはけんかなんだろうか? 「私のけいとあの子が同じに見えるなんて、きっと視覚認識がいかれているのよ。新しいのにとりかえたほうがいいんじゃない?」 「そんなことないわよ。私の身体は昨日メンテナンスしたばかり。少しでも異常がある箇所は全部取り替えたわ。正常そのものよ」 「じゃあ、なんで同じに見えるのよ」 けいくんのおばさんがめぐちゃんのおばさんをどついた。めぐちゃんのおばさんはまっすぐに倒れ、道路に何かをまき散らした。 金属、だろうか。 僕はただその光景を見つめていた。電柱についた手の震えが止まらない。 「ほら、こんなに簡単に部品をまき散らしてる。メンテナンス自体がいかれていたのよ。冷静に考えなさいよ。ひろ君は何歳?」 倒れているめぐちゃんのおばさんに向かってけいくんのおばさんが喋っている。 「二〇歳、ね」 「あなたの子の歳は?」 「五〇歳、よ。どこが違うの? たった三〇しか違わないじゃない」 「人間の三〇年は私たちとは違うのよ。そんなこともわからなくなっているなら、壊れてしまった方がいいわ」 けいくんのおばさんはめぐちゃんのおばさんを蹴飛ばした。めぐちゃんのおばさんの頭が道路をくるくると回りながら滑っていった。 僕は後ろで足音を聞いた。 髪の半分くらいが白く変わっているめぐちゃんが、ひらひらした幼稚園の服をはためかせながら僕の横を駆け抜けていった。 |