04
奴と俺

 くそう、なんであいつは、俺よりあんな奴 を選んだんだ。もう、五年も付きあっていた っていうのに。
 俺は、冷たい風が吹き抜ける街の、狭い裏 路地を歩いていた。紙屑や落ち葉が、左から 右へと流されていく。風は俺の心の中をも強 く吹き抜けていた。
 俺が悪かったのか?いや、そんなことは断 じてない。俺は五年前、あいつの十万人の彼 氏希望者の中から、あいつに選ばれたんだ。 俺は十万人の頂点にたつ人物ってことだ。
 なのに、奴は…。
 一瞬、強く吹いた風は、俺の顔面に紙切れ を送り込みやがった。
 自然現象まで俺の邪魔をし、嫌うのか。
 俺は右手で払いのけた。
 確かに、俺とあいつの恋人関係契約は、五 年間だったさ。その間には他の人間は俺とあ いつの邪魔はできない事になっていた。だか らって、五年間の期限がきれた三秒後に、奴 が割り込んでいいってわけじゃない。98% の契約恋人が、期限がきれた後も引き続き交際しているんだ。
 そりゃそうさ。十億以上の組み合わせの中 のベストカップルとして選出されたのだから。
 俺の何が悪かったっていうんだ。五年間で 浮気など一度もしなかったし、酒もたばこも ギャンブルもしていないし、一度だって、予 定帰宅時刻をすぎた事はなかった…。
 肩が何かにぶつかった。振り返ると、ヒュ ーマノイドが謝りながら去っていった。俺は 足下の石を拾い、投げつけた。
 ヒューマノイドは人間を傷つけられない。 そして、無表情だ。見た目が人間とそっくり でも、俺には見分けがつく。
 石はヒューマノイドの帽子をはねとばした。 その帽子を無言で拾って、ヒューマノイドは 避難の目と共に歩き去っていった。
 そろそろ目的の地点に近付いてきた。奴と あいつが帰りに使う交差点。
 俺はマグナムの安全装置をはずす。
 奴さえいなければ、あいつは俺の所へ帰っ てくる。奴さえいなくなれば…。
 角を曲がろうとしている二人が見えた。俺 は奴の心臓を狙い、撃った。
 ひゅっという音。

「あなたって、クールで格好いいわね」
「…そういわれると光栄です」
「それにくらべて…、熱血過ぎるのはね。今 どきマグナムを持ち歩いているような」
「…………」
「どうしたの?」
「そこに人が倒れています」
 俺は自分の胸を見た。薄れゆく意識の中で その胸がまっかに染まっていることに気付い た。俺はどうなったんだ?確かに、奴に向か って引き金を引いたはずだ。ねらいは完璧だ った。
 俺は心配そうに駆け寄ってくる奴を見た。
 衣服の左胸には、穴があいている。
 何故?俺は確かに命中させたのに。何故俺 が怪我をしているんだ?
 奴が俺の体を揺する。心配してくれている のはわかるが、揺するのは明らかに俺の傷口 を広げる行為だ。
 俺を殺す気なのか?
 あいつは交差点の角に立ち尽くしたまま、 硬直している。
 早く救急車を呼べよt…。
 俺の血はどんどん流れ出てゆく。奴は包帯 を自分の鞄から取り出した。
 これで、俺は助かるかも…。
 奴の破れた胸にむき出しの肌があり、何故 かそこにはこう書かれてあった。
『恋愛用ヒューマノイド。適度に賢く、とき に失敗もします。普通の恋愛に飽きたあなた に』
 その下に、注意書きがもう一行。
『適度に一般常識が欠如しています。災害現
場では、頼ってはいけません。すぐにお近く の救急センターに連絡しましょう』
 俺は、俺の目の前で、奴が包帯を奴自身の 体に巻き付けて遊んでいるのを眺めた。
 俺は昔のテレビ番組を思い出した。
 奴の体は、鉛玉でさえも跳ね返す。
 奴はロボット。
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創作日 4/30/2000
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