|
. タイミングの悪い二人がいた。 何をするにもタイミングが悪く、間が悪い二人組だった。 何をしても裏目に出る二人組で、二人が出会ったときがすでにタイミングが悪かったのではないかと、友人達には噂されていた。 何か転機が必要だ。そう考えた二人は、近所で有名な金持ちのN氏の家に強盗に入ることにした。 あらゆるセキュリティを想定し、二人は自転車の鍵開けの技術からサイバーテロの起こし方に至るまで、強盗に使えそうな様々なことを五年の歳月をかけて習得した。 N氏の家の見取り図を入手し、逃走経路も考え、盗んだ金の使い道まであらかじめ決めておいた。すべてを決めておけばタイミングが悪いということはないと二人は考えたのだ。 「――というわけだ。じいさん。この強盗をきっかけに、俺たち二人はチャンスを掴む」 N氏を縄で縛り上げながら一人が言った。 二人組はN氏の留守を狙って家に侵入したはずだったが、なぜかN氏は家にいた。五年をかけてN氏の行動パターンを作成したのだが、この日はN氏はたまたま家にいたらしい。 強盗が刃物を持って押し入ってきても、N氏は驚くこともせず、全く動揺せずに、にこにこしながら二人組を迎え入れた。 自分から金庫のある場所を案内し、その後に、両手を挙げて縛ってくれと言った。 「おかしくないか。こんなにあっさり強盗というものは成功するものなのか?」 一人が金庫の鍵をいろいろといじりながら言う。 「このN氏は、俺たちが怖いから抵抗しないんだろうよ。金持ちだって、命が惜しいんだよ」 窓から外の様子を眺めていたもう片方が言った。 「おい、相棒、この金庫……」 「金庫は、左に三つ、右に五つ、左に七つ回せば、開きますよ」 N氏は脅迫される前に自分から金庫のロックの開け方を喋った。 二人組は拍子抜けした。 自分達が五年をかけて習得した技術は何の役にも立たないことを知ったからだ。 技術を使おうとする前に、立ちふさがる障害はすべてN氏が取り除いていた。 「あと、セキュリティが作動するといけないから、あまり窓には近寄らない方がいいですよ」 「おう、そうか」 なんて協力的なんだろう。二人組は思っていた。これなら俺たちにも転機が訪れるはずだ。 あらかじめ用意しておいた袋に札束を半分だけ詰め込んだ。あまりにも親切にしてくれるN氏に申し訳ない思いを抱いたのだった。 二人組は本質のところでは悪人ではない。ただ、転機が欲しい一般人だった。 「半分なんて粋なことをしないでもいいですよ。全部持っていってください。金庫の中のお金を全部盗まれても私には土地や建物などの資産がありますから」 「おう、そうか。ありがたい。俺たちは金がいくらあってもたりないからな」 「相棒……」 「ま、本人がいいって言っているんだから、いいだろうさ」 二人組は袋に金庫の有り金を全部詰め込んで、さらにそれをトランクに押し込んだ。 「それじゃ、助かったよ」 「さよなら、N氏」 「道中気をつけてください」 二人組は玄関から颯爽と飛び出していった。 . 二人組がいなくなってから、N氏はほくそ笑む。 「あの金がもうすぐ時効を迎える強盗事件の金だとは、あの二人組は知るまい。時効間際は捜査がきびしくなる。どうしようかと思っていたところにあの二人組は丁度よく強盗に入ってくれた」 外からサイレンが聞こえてきた。パトカーが何台もランプをつけて走り去るのがN氏の家の窓から見えた。 . 「五年間、ご苦労様」 |