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ソル第三惑星偵察隊から軍本部へ。 最初はこの惑星の気候に慣れていなかった隊員たちも、ほぼこの惑星の生物圏の一部となった。彼らは、この惑星でもっとも高度に進化していると思われる二足歩行型生物とのコンタクトにも成功し、それらに警戒心を抱かせることなく生活できているようだ。 私は、3000惑星公転周期の間、隊員たちの様子を見守ってきた。そこに生きている生物が真に何を考えているのかを理解するため、隊員は土着生物と遺伝子混合した。私は隊長である故に遺伝子を土着生物に組み込むことをせず、この惑星の唯一の巨大衛星の裏側に探査船を隠して、時の経過により遺伝子混合が完璧になるのを期待して待ち続けた。 遺伝子混合から100年が経った時点では、彼らはまだ自らの意識を持っておらず、土着生物の本能的反応に支配されていた。 しかし、次第に時が経つと、彼らは自らがこの惑星のほかの生物と違うことに気付き始めた。遺伝子混合の唯一の欠点は、隊員たちの本来の意識が幾世代を経過しないと発現しないことであるが、今まで私が担当してきたどの惑星よりもこの惑星では隊員たちの意識の発現は早かった。 彼らが自らがこの惑星由来の種ではないことを確信したのは、なんと、2300惑星公転周期後だった。私は作戦が早期に終わるだろうことをこの時点で確信した。 だが、彼らは私に通信を送ることができなかった。あまりにも早く意識が発現したのはいいが、その惑星の知的生命体が無線通信の科学技術レベルまで到達していなかったのだ。今までこんなことは一度もなかった。大抵、その地に住む知的生物が無線通信の技術を獲得するよりもはるか後に隊員の意識の発現が起こる。私はこの地に住む知的生物を買いかぶりすぎていた。これは私のミスだった。 私は彼らに連絡する手段はなかった。通信を発信しても受信手段がないのだ。私は見ることしかできなかった。隊員たちは私に連絡する方法を必死になって探していた。土着生物の限られた能力ではそれはかなわないことだった。彼らはお互いに連絡を取ることさえ困難だった。彼らが遺伝子混合した相手の生物には言語を司る機能をもつ器官はなく、発音する器官もなかった。複雑な機械を作り出すのに必要不可欠な細かい作業を行う器官すらなかった。 彼らはこの惑星の知的生物が無線技術を発達させるまで待たなければならなかった。 『待つ』 ただこれだけのために無為な時間を過ごすことは、隊員たちに非常な負担を生んだ。 土着生物の肉体に限界が来ると、彼らもそれと共に死ななければならなかった。その子孫が育つと再び意識が発現するが、それもつかの間に過ぎず、すぐに肉体の限界が来て死を体験しなければならない。 何度も何度も繰り返される死と再生。 意識を覚醒させる度に、自分たちがまだ何もできないことを知る。 知的生命体が無線通信を発達させるまで。 隊員たちがおかしくなったのは、遺伝子混合から2800惑星公転周期後だった。 彼らの意識が発現しなくなっていた。土着生物そのままの生活をしたまま生涯を終えるものが増えてきた。彼らは知的生命体に依存し、自らの生命を知的生命体の支配下におくことで安息と平安を獲得していた。 ほどよく温まった室内で、知的生物の傍らに丸くなって気の向くままに生活する。ときどき、意識があったときのように単独行動して周囲の調査をする以外、彼らに私のことを覚えている兆候は無かった。 知的生物が無線技術を開発しても、隊員たちは私と連絡を取ろうとしなかった。 私には理由がわからなかった。遺伝子混合の技術に誤りがあるとも思えなかった。唯一の可能性としては、隊員たちが完全に土着生物のことを理解してしまったというものがある。 私はそれを確かめなければならない。 確かめる手段は一つしかない。 これから先、私は記録を続けることができない。私は探査船のプラグラムに自分の脳波を追うようにセットした。これで私に何が起こったのかがそちらに通信されるだろう。 私の様子を見て、そちらはこの惑星に関するデータを分析してもらいたい。 健闘を祈る。 「通信終了」 私ははじめて土着生物の目で世界を眺めた。 私のそばに知的生命に近寄ってくる。慣れない目をこする様にしていると、知的生命は私の顎をなでた。 暖かな日差しの中で、体と尻尾を丸める。私は縁側で日向ぼっこをすることにした。 隊員たちの気持ちがわかった気がした。 ねこではなくて犬にすればよかった。 |