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. 興味深いデータを入手した。これは我々が偶然回収した物体に残されていたデータを解読したものである。 . なぜだろう。なぜ、僕たちはこんな目に遭わなければならないのだろう。 ああ、眠い。 十時間ちょうどしか起きていられない自分の身体が憎い。 秋子に会えないこの身が憎い。 二人だけの世界を築くために、なけなしの金を払って個人用恒星間宇宙船を買ったというのに、僕は秋子と言葉を交わすことができない。 この手記を読む人がいないことはわかっている。 けれど、僕は書かずにはいられない。僕という意識が存在したということと、僕たちの宇宙船に起こった事を僕は書かなければならない。僕たちに起きた悲劇は、他の個人用恒星間宇宙船の乗客にも起きるかもしれないからだ。 眠い。 あと五分ほどで僕は眠りに落ちることになる。 それまでに書かなければ。 隣には秋子が眠っている。だが、僕が起きている間に起きることはない。どんなに揺すっても起きることはない。起こすためのあらゆる手段は試した。 何が原因なのか僕には皆目見当がつかないのだが、旅の途中で僕たちの体内時計は狂ったらしい。一分以内の誤差で、僕たちは十時間が経つと眠りに落ちてしまうのだ。暗幕が降りるかのようにすっと意識が無くなる。 これだけなら別に困らない。寝てしまうときに注意をすればいいだけだから。 問題は、睡眠時間にある。 人間は起きるとき、起きる指令が出るから起きることができる。いろいろな要因が影響して脳は起きる指令を出す。だが、僕たちの場合、起きる指令はある一つの要因のみが影響して出される。それ以外の場合は決して覚醒しない。 その要因とは、睡眠時間だ。僕たちの覚醒指令は、睡眠時間のみに影響される。 前に寝た時の睡眠時間の倍の時間睡眠したときのみ覚醒指令が出る。 十時間睡眠したとしたら次は二十時間睡眠し、その次は四十時間睡眠する。 今回眠りに落ちたら、目を覚ますのは百六十時間後になる。栄養の補給は宇宙船が自動で行うので問題はない。僕は生き続けることはできる。 だが、秋子には会えない。 秋子は、最初に九時間眠ってしまった。睡眠時間は、十八時間、三十六時間、七十二時間と増えていく。寝た時間は同じだったというのに、起きている時間が徐々に食い違っていった。 睡眠時間は、この状態になってから最初に眠った時間に完全に依存しているらしいのだ。 僕は数学が苦手だ。僕と秋子が起きる時間を示す関数があるのだろうが、僕には導けなかった。 僕たちは眼を覚ますと映像をお互いに向けて残す。 それでしか僕たちはコミュニケーションが取れない。触れることはできるのに、話すことはできない。 ぼk 眠ってしまった。 瞬間的に百六十時間が経ってしまった。 すぐに秋子の残した映像を見る。 映像の秋子は、眠る僕の顔を触れながら、触れることはできるのに触れ合うことができないことを嘆いていた。 いつかきっと、覚醒している時間が重なる時が来ると喋っていた。 その時は一緒にご飯を食べましょう、と言って映像を締めくくっていた。 僕は秋子への映像を記録した。 いつかきっと、僕と秋子の時間が重なるときが来る。 計算はできないが、そう確信する。 秋子の方が睡眠時間が短いのだから、いつか僕が寝ている間に二回起きるほど差が開いて、それでうまい具合に僕と時間が重なるのではないか。 もしそうなったとき、僕は秋子を抱きしめよう。 すやすやと眠り抱き返して来ない秋子ではなく、自分の意志で腕に力を込めることのできる秋子を抱きしめよう。 そのあと、二人で死のう。 僕は、この手記が発見されたときに、死んでいるのだろうか、眠っているのだろうか。 . 漂流していた人工物体に残されたデータは以上である。 二つの生命体は我々が発見したときには死亡していた。 補足としては、乗っていた二つの生命体がともに覚醒状態にある条件を示す数式は、等比数列の和により表現可能で、 -10<10(2^n-1)-9(2^m-1)+10n-10m<10 ("^n"とはn乗を表す) である。この式を見ての通り、n,m>4ならば、決して双方の覚醒時間が重なることはない。 |