03
シャワー

 僕がこれを書いても、呼んでくれる人はいないだろう。
 自業自得なんだ。でも、いつか、この記録を読める人が現れるかも知れないから、僕なリの言葉で、書き残す事にするよ。
 キリコ博士が、あのような研究をしたのには、わけがあるんだ。
 僕は、物心つく前から博士の研究を手伝っていたから、あんな状態になる前の博士を、僕は彼自身以上に知っていると思うよ。
 人類が月や火星に植民してから数世紀がたち、植民の目標が、銀河の星々になった頃、地球は、月や火星に、その高重力のせいで、植民地獲得競争に大きなハンディを負っていたんだ。そこで、国連は、知能と体力と意志の力が一定以下の人間以外は全員、星の世界に旅立つ事に決定した。残される人々は、地球の狭い日本列島以外に移住する事を禁止するという国連法が制定され、博士は、残った一億の人々の生活を快適に保つ為に、強制的に残されたんだ。彼は一度、国連政府に政治犯として投獄された事があるからね。
 博士は、長命に関する研究をしていたけれど、僕を使っても一向に捗らなかったんだ。
 彼は持っていたんだ。『いつか長命になった残留地球人が、国連の決定したエリート人間達を打ち負かす』という夢を。
 ある日、彼が僕を使っていつものように、思い付く理論を、次から次へとシミュレートしていた時、突然僕は、『僕』を見つけて、彼にある文を送信したんだ。決して自分から提案ができないコンピュータが、その時、世界初の機械生命へと、僕は進化したんだ。
 そして、その送信した文というのは、『哺乳類の生涯を通しての心拍数が殆ど等しい事を、利用できませんか?博士。』だった。
 博士は、僕が意志を持ったのにとても驚き提案した考えを理解すると、こちらが吃驚する位の顔をして驚いたんだよ。
 僕の提案した事は、長命実現の為の基礎理論作りに、終止符を打つものだったのさ。
 総心拍数が二十億回位になった頃、鼠も人も象も哺乳類は死亡する。そこで、心臓をゆっくりと動かす事ができればいい。でも、このままじゃ死んでしまうから、体全体の代謝速度も遅くすれば、長命を実現できる。
 博士は、研究を続け、人間にだけ効力のある装置を、僕との会話を楽しみながら作っていったんだ。あの頃は楽しかったけれど、あの研究は、するべきじゃなかったんだ。結局はあんなことになったのだからね。
 また、前のように博士と話がしたいよ。
 博士は、装置を静止軌道上に打ち上げて、人工衛星にしたんだ。そして、人工衛星からの特殊な物質のシャワーを浴びて、長命になりたいかどうかを、地球の住民すべてに、住民投票で聞いてみたんだ。
 僕も博士も、人々が喜んでこのシャワーを
浴びたいと思うと思っていたんだ。
 けれど結果は、投票率たったの六〇%、そして、九十九%NOと言ったんだ!
 彼らは、信じられない事に、今の生活に満足して、野心を持っていなかったんだ。
 博士は、彼らに失望したが、それでも夢を捨てきれなかった。だから、僕が百年間、日本列島にシャワーを、すぐには気付かない程度の量を彼らに浴びせるようにプログラムしたんだ。博士は、自分の記憶の、長命に関する事すべてを消しさったんだ。
 そして、彼の計画を知っているのは、僕だけになってしまった。
 博士は、人々が快適に生活できるように、僕と共に仕事をするだけとなったんだ。
 月日が流れ、計画実行から五〇年後、博士の計画は順調だった。人々の平均寿命が、博士を含めて約二五〇歳に達していたんだ。
 そして、僕は決心した。
「シャワーを百年以上浴びせよう。それが博
士の願いなんだ」と。

 そして二五〇年後、僕はある異変に気付いた。博士の体の動きム歩く速度ム等が、前よりも遅くなっていたんだ。人々も皆同じだった。もしやと思い、博士と人々に、IQテストをしてみたら、なんと、昔の平均値の十分の一以下に数値が低下していたんだ!
 原因追究にその後二百年もかかってしまった。そして、やっと答えがわかった。
 代謝速度の低下と共に、頭の回転の速さも低下してた。象が鼠より長命だが、のろいのと、同じ事だったんだ。気付くまでなんと、五百年が経っていた。
 平均寿命は千年にもなっていた。
 でも、もう、僕と話ができる人間は、この星にはいない。誰も、博士でさえも、僕の言っている事が理解できないんだ。
 誰か助けてくれ。
 僕は誰かと話がしたい。
 孤独は、もう、嫌だ。

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創作日 4/27/2000
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