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マリオネット

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 気がつくと、僕は他人に身体を操られていた。
 身体中が僕の意志とは関係なく動いている。
 遊園地のスクリーン付きの体感型の乗り物に乗っているみたいだ。頭を固定されて、見たくもない映像を見ている、そんな感じ。
 視線が上下に揺れている。僕は歩いているらしい。
 僕は深呼吸をして(呼吸も操られているから気持ちだけだけど)、目をつぶって(これも比喩だけど)、
――歩くのをやめろ。
 と念じた。
 だが、念じても何も変わらなかった。
 僕を操る誰かが街のショーウィンドウに目をとめると、僕も目をとめなくちゃいけない。操る誰かが意識している場所以外はぼんやりとしか見えないのだ。
 僕は一体何をすればいいのだろう。
 身体の自由がなければ、僕は考えることしかできない。
 身体の自由がなければ、考えた結果を試してみる事もできない。
 感覚は、ある。
 五官はすべて正常だ。
 肌寒い秋の風を僕は今感じているし、足の裏と地面が当たったときのこつこつとした音も聞こえる。焼き芋屋の売り声が、いい匂いと共にやってきているのがわかる。その匂いに反応して、僕を操る誰かがつばを飲み込むのを感じ取れる。
 けれど、首筋が寒くても僕は肩をすくめることさえできないのだ。
 考えることしかできないのなら、哲学とか純粋数学でもやったほうがいいのかな……。
 僕はそう思いながら、勝手に動く映像をぼんやりと眺める。
 急激に景色が変化する。
 灰色の地面が目の前に迫ってきた。
 僕を操る誰かは手を伸ばしたが、間に合わなかった。僕は顔から地面につっこんだ。
 痛かった。
 顔がひりひりとして痛い。けれど、操る誰かは顔をさすらずにおなかをさすっている。おなかをぶったわけではないのに。
 早く顔をさすってほしい。顔に異物感がある。切り口から石か何かが入ったのかもしれない。
 安堵の吐息を漏らされた。
 僕はため息をつきたいぐらいなのに。
 僕は家に帰ってきた。肩にかけていたショルダーバッグをソファーに放り投げ、テレビのリモコンに手を伸ばす。テレビがやかましい音を立て始める。
『……昨今の犯罪の低年齢化には深い懸念があります。犯罪の他にも、低年齢化はさまざまなことで起こっているようです。たとえば受験戦争の低年齢化。今は幼稚園入試の為に三歳児を塾に通わせている親が過半数います。もしかすると、こちらのほうが犯罪の低年齢化よりも……』
 操る誰かはテレビを消し、頭の禿かかったニュースキャスターをどこかへと追いやった。
――痛みが、猛烈な痛みが襲ってきた。
 どう形容することもできない猛烈な痛みだった。今まで僕が経験したことのない痛みだ。
――下腹部が、痛い。
 立ち上がり携帯電話に手を伸ばす。僕と操る誰かは初めて意見を一致させたようだ。このままじゃ気絶してしまう。これほどの痛みはきっととてつもない病気に違いない……。
 119を押す。
 電話口から誰かが喋っているのが聞こえたが、僕には理解できなかった。理解するほどの余裕がなかったのだ。痛みだけが頭の中を駆けめぐっている。
『……すいません、救急車を呼んでもらえますか……。予定日よりかなり早いのですが、意識を保てないくらい陣痛がひどくて……。場所は……』
 僕は操る誰かが喋っている言葉すら理解できなかった。言葉はただの音としてしか耳に入ってこない。
 バランスが崩れる。僕はゆっくりと倒れた。テーブルに倒れ込んだ。テーブルにぶつかった拍子に、その上にあったリモコンのボタンを押した。
 テレビがまたついた。
『……です。このままの勢いでさまざまな面で低年齢化が進むと、いずれ胎児の段階から……』
 大きなおなかが、起きあがるのにじゃまだった。

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創作日 11/23/2002
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