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いつものように

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 いつも三時からバイトで、いつもお客さんの応対をして、いつも同じ一日が終わる。
 学校が春休みになって、すでに一ヶ月が過ぎようとしていた。
 もはや曜日の感覚はない。
 何も変わらない日常。
 たまに遅刻しそうになって急いだりすることはあっても、本質的には何も変わらない。
 自分で決めたことをやって、誰かに決められたことをやって、そうして日々が過ぎていく。
 私は、そういう生活が好きだ。
 何も変わらない事は悪い事じゃない。
 変わらない日常は、自分が今まで積み上げたものによって成り立っているのだから。
 その生活は、すべて自分が決めたことだから。
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 いつものように三時からバイトで、いつものようにお客さんの応対をして、いつもと同じはずであった木曜日。
 けれど、その木曜日はいつもと同じではなかった。
 朝、私は自分でも驚くくらい早くに目が覚めた。
 体の調子がおかしい。
 それが何となくわかった。右手が、何となく痛む。その痛みは、具体的にどこから来ているのかはわからなかったけれど、痛いことには変わりなかった。
 右手の痛みに悩まされながらも、私はいつものように着替えて、いつものように化粧をして。いつものように居間へ向かった。
 みんなの様子がおかしい。
 それが何となくわかった。私に対する視線が、家族のみんなの視線が、いつもとは違っている。何が違っているかはわからない。けれど、何か違っている。
「今日、なんだね」
 私の姉が、私には意味のわからない台詞を言う。
「ついに、今日が来てしまったのか」
 ソファーで新聞を読んでいた父が、新聞をテーブルに置いて私の方を見て言った。さっぱり意味がわからない。
「どうしたの、おとうさん?お姉ちゃんも」
 私は、父と姉の台詞に不信感を感じながらも、いつものように朝食の用意をした。
 手が、ふるえる。
 お茶碗を持っていた手から、急に力が抜けた。
 キッチンと居間に広がる、陶器の割れる音。
「ごめんなさい!」
 いつもなら考えられないようなミス。私はお茶碗の破片をあわてて拾い集める。
「どうしたの?何か割れた音が……」
 その音を聞きつけてか、弟が二階から降りてくる。弟は私の方を見ると言葉を飲み込んだ。
 私には何がなんだかわからない。
 破片が、指に刺さる。
 破片が刺さった人差し指からは、血が出てこなかった。切り口は見えているのに、あるはずの血が、ない。
 私がその異常な光景を見て呆然としていると、父が私のそばに近寄った。
 見回すと、父も、母も、姉も、弟も、そばにいる。
「今日までありがとう、エリ」
 四人で口をそろえて言う。
 はあ、何言っているの?
 私はそう口に出そうとしたが、声が出てこない。声は口の中で消え、外には出なかった。
 右腕が痛い。
 左腕が痛い。足が痛い。頭が痛い。胸が痛い。
 全身が、痛い。
 私は全身を包み込む痛みの嵐にうめき、その場に倒れ込んだ。
 痛みによりかすむ意識の中、父の声が聞こえる。
「告げるか告げないか迷っていたんだが、告げないことにしていた。エリは何も変わらないことが好きだから、徐々に変わるよりも突然変わる方がいいと思った」
 何を言っているのかわからない。
「耐用年限は二〇年だった。だけど、エリは、期限が過ぎても私たちと過ごしてくれた。メーカーからは頑張っても今日で最後だって聞かされていた」
 身体のねじがゆるんでいくような気がする。
 腕が外れた。大きな音を立てて。信じられない。
 けど、家族との別れが来たことを私は悟った。
 声が出ない。
 さよならも言えない。
 いや、別れも日常の一部で、別れは再会の始まり。きっと、いつか、会える。
 さよならは言わない。
 私は、自分がただの鉄くずにならない事を信じて、機能を停止した。

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創作日 3/1/2002
これは工房長co_metのオリジナルです。この作品の無断転載を禁じます。
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