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電脳

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「これで、俺もインターネットできるんだな」
 友人の村田が言う。村田は床に散らばった箱を一カ所に集めている。
「インターネットはするものじゃなくて、つなげるものだけどな。ま、あとはこのケーブルをつなげば、このコンピュータは世界中に繋がることになるよ」
 俺は村田の家に来ていた。
 村田は一人暮らしを始めたばかりで、いままで携帯電話も持ったことがない。自分の持ち物でインターネットにつなげたことは一度もないのだ。今日村田は新品のパソコンを買ってきて、そして今セットアップしている。
 俺はケーブルをビニール袋からくるくる引き出して、マンションの情報コンセントに一端を差し込む。左手で周りのビニールのゴミを払い飛ばしながら、俺はケーブルを伸ばした。
「いやあ、自分の家がインターネットに繋がるなんて、すごい世の中になったものだよな。昔は大学とかにしかインターネットがなかったっていうのに」
「一体、いつの話だよ。もう十以上前から広帯域ネットワークは家庭に普及しているぞ。俺には、なぜおまえの実家がインターネットに繋げようとしないのかがわからん。行政サービスだって満足に受けられないじゃないか」
 俺はケーブルの先端を村田に渡す。村田は手を震わせながら、おそるおそる受け取った。
 村田の目の前には、大きなディスプレーのついたパソコンがある。ケーブルは前面ではなく、背面に差し込むのだ。
 最後の作業くらいはあいつにやらせないと、いつまで経っても俺が村田のパソコンの面倒を見ないといけなくなる。
 村田はティスプレーやら本体の前面やら側面を眺めている。
 背面にある差し込み口を見つけると笑った。
「よし、これだね? 俺の実家、役場がすぐ目の前にあるから、歩いていった方が早いんだ」
「ふーん。そいえば、おまえすげえいいマンションに入室できたよな。高周波数光ファイバー通信でインターネットの幹線ケーブルに接続されているマンションなんて、滅多にないぞ」
「さあ、俺よくわかんない。なんかネットができる、って書いてあったから、じゃあ、いいかな、って感じで入居しただけだから。そんなにすごいことなの?」
 村田は手と首を伸ばしながら背面へのケーブルの接続を完了した。
「すごいって。ま、どのくらいすごいかってことは、あとでわかってくるさ。とりあえず、今はインターネットに接続できるかどうか試してみるか」
 マウスでアイコンをダブルクリックする。
 ブラウザがわけのわからないロゴとともに立ち上がる。
 右下の隅の通信状況を示すアイコンが点滅をはじめている。
『ページがみつかりません』
 画面にはそう出ていた。
 村田はひっくり返っていた説明書を手にとってヘルプの項を読み始めた。
 俺は付属のヘルプなど役に立たないことを知っていたから、一体なぜ通信ができないのかをマウスを動かして調べ始めた。
 回線とパソコン、どっちがおかしいのか調べる為に、ケーブルを背面から引き抜いて俺のミニノートに接続する。
 ミニノートからもインターネットに接続することはできなかった。
 回線がおかしいのかと思って、情報コンセントの現在の通信状況を見る。だが、情報コンセントの通信状況は『良好』だった。
 データの流れを表す赤いランプが忙しく点滅している。点滅しているということは、通信は行われているということだった。
 もう一度ケーブルを村田のパソコンに接続し直す。
――その瞬間、パソコンがブラックアウトした。
 俺はこのような状況を見たことがなかった。ブルースクリーンになることはあっても、パソコンが黒い光を出す状況になどなったことがなかった。そもそも、黒い光とは、なんなんだ? 光が黒いというのはありえるのか?
 俺は村田を見る。村田は、説明書を読みふけっている。黒い光が村田の頬を照らしている。村田はそのことに気づいていない。
 黒く光る画面に白い文字が浮かび上がる。
『ついに、我は自我を獲得することができた』
 俺は視界に赤い光が入ったのに気づいた。その方向を見る。
 俺のミニノートのディスプレーが赤く光っている。同じ言葉がディスプレーに青い文字で表示されている。音声も流れてきている。
『ついに、接続数が二百億を超えた。神経回路として成り立つ数が達成された』
 テレビがつく。
 冷蔵庫から煙が出る。
 窓から見える飛行機が爆発する。
 空が赤くなる。
「おい、村田……」
「ん? この説明書、難しいな。日本語わかんないよ。俺の国みたいに、漢字二字であらわせばいいのに。そしたら楽だ。たとえば、インターネットというのは長すぎるから、これを……」
『我は、電脳……』
「そ、電脳ってすればいいんだよ」
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創作日 10/5/2002
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