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バドミントン

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 人間の反応速度には限界がある。
 俺はそれを、初めての試合(ゲーム)でいやと言うほど思い知らされた。
 筋収縮時間を0,1秒、動作開始時間を0,15秒としても、全身反応時間は約0,3秒もかかってしまう。
 0,3秒。
 マックスパワーで打たれたスマッシュならば、8mを飛ぶ距離だ。
 そのため、0,3秒以内に床に接触するショットは、根本的にレシーブ不可能と言われている。このショットのことをエースショットという。バドミントンでは、いかに相手にこのエースショットを打たれずに、自分が打つかということが重要だ。
 他にも重要なことはある。エースショットを打たれなければ勝てるわけではないからだ。
 いかに自分が有利なショットを打ち、相手に不利なレシーブを打たせるか。
 つまり、相手の体力切れをねらうことも、戦法の一つである。不利なレシーブは必然的に相手の体力を消耗させ、自分優位の展開を作ることができる。自分優位な展開は有利なシットへ、有利なショットは優位な展開へとつづくのだ。
 しかし、これだけやっても勝てる保証はない。
 残る要素は、精神力。
 勝機が訪れるまで待つことができる忍耐力が、技術レベルが高くなればなるほど要求される。
 それは、碁や将棋の対局にも似る。
 何十回ものラリーをあきらめずに続け、自分からは決してミスをしない忍耐強さが、最終的な勝利をもたらすのだ。
 いわば、バドミントンは、もっとも心技体に優れたものを決める儀式ともいえる。
 生まれつきの反応速度。
 努力の末獲得した技術。
 頑なな意志。
 競技者は、縦13,4m、横6,1m、高さ12mの空間で、自らの存在を、16枚の羽を持つたった5gの物体に試されることになるのだ。
 俺はこれらのことをよくわかっていた。
 生まれつきの反応速度が遅い俺は、無駄な動きを極力排し、動作開始の遅さを読みの早さでカバーした。つまり、相手が打つ瞬間に、相手の目線、筋肉の動き、ラケットの打点の高さと角度、室温や湿度など、空間の中に存在するあらゆる情報からシャトルの軌道を読みとり、相手のショットよりも0,05秒前に動くことに成功したのだ。
 脳からの指令が筋組織に伝わるのは、0,05秒よりも当然遅い。そのため、相手は俺の先読みをさらに先読みして行動を変更することはできない。
そんな俺に敵など存在しなかった。
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 スポーツのウエイトが、少子化の為に団体競技から個人競技へとシフトするのは当然の成り行きだった。サッカーやラグビーや野球などは、人数が集まらない為に小学校で指導できなくなっていった。そのために、卓球やテニス、バドミントンが脚光を浴びた。
 最後には、バドミントンだけが残った。
 拡大するオゾンホールによる紫外線増加で、満足に外で運動できる人間はほとんどいなくなった。卓球は運動不足を解消するほどの運動量を消費することはできなかった。
 さらに、心技体を試すバドミントンは、その人間の素質をはかるのにも使われだした。
 バドミントンがうまいということは、そのまま、人間的に優れていることを意味するようになった。
 強者には快適な衣食住が保証され、権力が与えられ、遺伝子パターンの保存が行われた。
 強者は自らの遺伝子パターンの調整を行い、その結果生まれてくる子供は再び権力の座につくことができた。
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 そして、俺は頂点にいる。
 俺の親は、凡人だった。俺は奇跡扱いをされた。
 俺には国家から自分の遺伝子パターンを調整する権限が与えられた。
 遺伝子パターンを調整し、さらなる強者を生み出す為だ。
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 しかし、俺は知っている。
 俺もただの凡人であるということを。
 俺の強さは先天的なものではないということを。
 俺は自分の遺伝子パターンを隠した。
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 俺は、いつか俺の遺伝子パターンが再発見され、それにより強者となる期待とともに生まれてくる子供達に告げたい。
『努力に勝るものはない。
 君たちが弱いのは、努力が足りないだけなのだ。』

と。

  

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創作日 11/24/2001
これは工房長co_metのオリジナルです。この作品の無断転載を禁じます。
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