06
赤子

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「牧恵。和也もそろそろ五歳の誕生日だな」
 妻は和也とパズルで遊んでいる。
「そうね。もう少しで五歳ね。楽しみだわ」
 私には子供が二人いる。
 十三歳で、私達の言うことを全く聞かない長男の健太。最近はネット友達とどこと知れない場所に毎日遊びに出かけている。
 そして、可愛くて可愛くて仕方がない五歳間近の和也。
 私は、仕事の合間にいつも彼の仕草を見て楽しんでいる。世の中の汚い部分を全く知らない、その瞳で見つめられると、仕事の疲れもたちまち吹っ飛んでしまう。
 それにくらべて健太は、世話ばかりかかって、まるで親に逆らうのが自分の仕事かのように振るまい、全然可愛くない。
「和也は、もちろん健太のようにはしないんだな?」
 妻は、つくりかけたパズルを無邪気にひっくり返した和也を優しく叱りつけ、それらを箱に片付けていた。
「当たり前でしょう?大きくなった子供なんてちっとも可愛くないもの。私達の老後の保証は健太に任せることができるのだから、あの子は大きくさせないことにしましょう」
 最近のバイオテクノロジーは絶頂期にあった。私達一般人には理解ができない程進んでいる。
 私達はただそれでできることを利用している。その技術で、私達は和也を大きくさせないこともできるのだった。
 次の日、私達は和也をセンターに連れていった。待ち合い室には、子供とその両親が沢山座っていた。
 皆、私達と同じ目的で、ここを訪ねてきているのは、子供の年齢が大体五歳位であることから判る。緑色の長椅子に座った。
 一〇分程で私達の番が回ってきた。白衣を着た男が、私達が持ってきた申込書を眺めて言う。
「今回は二回目ですね。わかっているとは思いますが、この紙のここに、署名をして下さい。すぐに始めますので」
『この処置にあとで、なんらかの不満があっても、私達は、この処置に関することについて法的に訴えることを諦めます』
 私達は二人ともすぐに署名した。
「では、息子さんを預からせていただきますね。おいで、和也君」
 私達は和也をそこに残して家に帰った。
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 和也を置いてきてから一週間後、和也の五歳の誕生日がやってきた。
 私はこの日をどれだけ待ち望んでいたか!
 仕事の手も、満足につけられなかったぐらいである。
 玄関のチャイムが鳴る。急いでドアに向かい、トビラを開ける。
「宅急便です。ハンコお願いします」
 私は慌てて判子を探し、急いで押した。宅配員が帰ったあと、私は、箱を居間にそっと持ち込んだ。
 蓋を開け、中から和也を取り出した。妻にもその和也を見せた。
「やっぱり可愛いわねえ。赤ちゃんは」
 五年前に使っていたベビーベッドに和也を寝かせる。寝顔が愛らしい。和也と一緒に入っていた紙切れには、
『彼は生後一ヶ月です。今なら、御要望とあらば生後一時間の状態にもできますので、今後とも弊社の利用をよろしくお願いします』
 と、書いてあった。
 五年後にはまたこの会社を利用することになる。
今度は生後一時間も悪くないと思った。最近、近所の人どころか世界中がこの会社のお世話になっているらしい。
 若年化遺伝子というものを、人間が五歳位までは持ち続けているということが発見されて以来、この会社は、その遺伝子を利用して赤子に戻す技術を売り出していた。
 それが『子供は小さい頃が一番可愛い』というユーザーのニーズに答え、二十年で世界第一位の資本を持つまでになった。
 私は、和也のもちもちとした肌をつついていた。妻が私の手首を握る。
「まだ、赤ん坊なんだから、そんなことをしたら怪我するかも知れないじゃない」
「大丈夫だよ。もう、三回目の和也なんだから」
 私達は和也を囲んで喋っている間、テレビをつけっぱなしにしていた。
「政府が若返り技術を、労働力の減少により禁止してからも、それを求める親は絶えません。桂首相は、昨日、『今、我が国の平均年齢を見ても、高齢化には見えない。しかし、超高齢化と超低齢化の二つが起きているのです。皆さん『センター』を利用しないで下さい。日本の経済が破たんします…』」
 私はやかましいテレビを黙らせた。和也が目を覚ましてしまうからだ。
 私は郵便受けに入っていたチラシを取って見た。
『新技術!遺伝子操作で、あなたの子が、あなたに従順な子に変わります!』
 私はすぐに問い合わせた。
 もちろん、私の老後を、健太によって滅茶苦茶にされないために。

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創作日 6/10/2000
これは工房長co_metのオリジナルです。この作品の無断転載を禁じます。