神々の狂宴
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俺は、この船の所有者と思われる人間と会話しながら、同時に宇宙空間の様子を把握していた。補助脳はこの船から取れうる限りの情報を解析している。 俺の目の前にいる男は、俺が何者なのかを尋ねてきた。 俺はこの男には用がない。俺が用のあるのは、この船に存在している情報だ。情報を解析するのに、艦橋に行く必要は本来ない。だが、この船を統率している存在が俺の目的を理解してくれたほうが、物事は楽に進む。 この文明は、自らの創り出した電子制御に基づく知性体に統率を任せていた。 俺は、出現した最初にこの電子知性体にアプローチをかけた。 だが、この知性体には論理的欠陥が存在し、俺の崇高な目的を理解することができなかった。未熟な創造者は、完全な知性体としての人工知能を創り出すことには失敗していた。 特定用途に使用する為だけの知性体は、その限定された機能故に、自分と論理体系が全く異なる知性体との交流は不可能だ。 創造する知性体に限定を設けてはならない。 そんなこともわからずに、この文明は知性体創造までの技術を獲得してしまっている。 さらに、重力制御理論なしに他宇宙融合理論を実用化させてしまっているようだ。 この文明は歪んでいる。 電波通信技術の発明から俺たちが1万年かかって到達した惑星間航行技術レベルに、たった400年で到達してしまったのが原因だろう。その進化速度は驚嘆に値するが、それ相応の技術のアンバランスが生じている。 自らの肉体に対する遺伝子改変が行われていないのがその証拠だ。 この文明は、おそらくここ1万年近く肉体の基本的構造が変化していない。 自然進化は限界を迎えているというのに、肉体の人工進化を行っていない。 俺の目の前にいる男は、俺が何者かを尋ねてきた。 俺に答える義務はない。 だが、俺は補助脳が船に搭載された情報を解析し終わるまでの間、暇だった。 アンバランスな技術を持つ文明が、どのような思考パターンを形成してきたのかというのにも、興味がないわけではなかった。 「おまえ達は、他宇宙融合がどのようなものかを知っているのか?」 俺は男に聞いた。男は俺の質問を理解できなかったのか、一瞬顔が硬直したが、すぐに元に戻った。男は俺の目をまっすぐに見つめて言った。 「瞬間的に微視的11次元を拡張して、現れた任意の平行宇宙との接点を拡大、それをマイナス質量のエネルギー場で固定することにより、物理定数の違う宇宙とこの宇宙を接触させることだ」 やはり。 「それはおまえ個人の考えか?それともおまえ達の文明の他宇宙融合に対する見解か?他宇宙融合に関して、おまえ達の文明では問題点がないのか?」 男は鼻で笑った。 「何を馬鹿なことを。AS炉を私達が持っていることで、私達が他宇宙のことを知っていることはわかりきっているだろう?私達の他宇宙融合理論では、まだ絶対温度定数以外の定数の異なる他宇宙との融合を許していないが、それを克服するのも時間の問題だ」 俺はこの文明が間違った方向に進化してきたことを確信した。 他宇宙に関する見解は、別に間違ってはいない。だが、他宇宙融合を扱うときに避けては通れない問題を見落としている。 他宇宙融合理論の実用化は、重力制御理論の実用化がなければ実現しないはずだ。 他宇宙理論しか知らない状態では、実際に他宇宙融合したときの影響の程度が大きすぎて、実験すらできない。 「おまえ達は、他宇宙融合を行ったときに生じる影響の大きさをどう理解している?」 「他宇宙を融合させることによる影響は、マイナス質量のエネルギー場の不安定さを増大させることだが、私達はそれを克服している。私達の他宇宙融合理論に致命的欠陥はないはずだ」 こいつらは狂っている。 俺はいままでさまざまな異種生命体と接触してきたが、これほどまでに自分達の扱っている技術の危険性を理解していない生命体は初めてだ。 俺と遺伝子がほとんど変わらないというのに、なぜここまで劣っているのか。 そのとき、俺の補助脳が俺の脳に警報を送った。 『さきほどリングで攻撃した物体についてですが、物体の消滅に失敗しました』 攻撃を続けろ。 『しかし、対象物体は、他宇宙を回りの空間に多数融合させ、リングの攻撃をすべて受け流しています。推定他宇宙融合数、500万』 重力制御なしに500万もの他宇宙を融合させているのか? 『はい。重力制御をしている痕跡は全くありません』 最悪だ。 俺は目の前にいた男の胸倉をつかんだ。男は両手で俺の手をつかんで逃れようとしたが、俺の行動には常に重力変化が伴っている。生身の人間が逃れられる術はない。 「500万もの他宇宙を融合させたら、あれがやってくるだろ!何を考えているんだおまえらは」 「私にはさっぱり意味がわからない。500万だろうが1億だろうが、融合できる他宇宙に制約はないはずだ」 男は苦しい息を吐きながら言う。俺は男を床に下ろした。 こんなことをしている場合ではなくなった。 補助脳に情報収集をキャンセルさせる。 補助脳は船に搭載されていた情報の79パーセントを入手していた。 俺はその場で空間に穴を穿つ。 あれがやってくる。 この時期にあれに来られると、俺達の計算が狂う。今までの計画が水泡に帰す。 俺一人で食い止めなければならない。 俺は、穿った空間を通り、宇宙空間へと移動した。
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