神々の狂宴

第11話

『ウニ』

 何も見えなかった。
 私の感覚は真っ白になっている。観測機器に過剰な量の情報が流れ込んだとき、使用者の脳への負担を押さえるための自動制御機構が発動している。訓練を受けていない人間(宮内のような着任してから時間のたっていない人間)が誤ってのぞいてしまった場合には、無視できないダメージを受けるおそれがあるが、私のような人間の場合、過剰量の情報を脳内で処理する術を身につけているためにその心配はない。
「プロテクト解除」
 コンピュータに感覚を解放させた。それとともに、強烈な情報の洪水が流れ込んでくる。
 ASDSの稼働率100パーセント。空間湾曲率25マノ。全動力の80パーセントが防衛にまわされている。前方の視認不可能。前方のリングからの高エネルギー流がADSLに逆流しているのが原因と思われる。偏向スペクトル解析不可能。EMFには今のところ異常なし。高エネルギーに減少の傾向なし。むしろ増大している。
「いったい、何が起こっているの?」
 漏斗を逆さまにつけたような、砂時計のような船体の中心部を、太い青白いエネルギー流が貫通していた。その他にも、360度あらゆる方向から『葵』に向けてエネルギー流が流れ込んでいる。外側から見れば、『葵』はウニのように見えるだろう。もしくは、箱に剣を差すよくある手品の方が、たとえとしては当たっているかもしれない。これだけのエネルギー流を受けているのに、『葵』自体にはダメージがないのだから。
 私は激しい情報量の波から感覚を切り離し、シンクロを解いた。すぐにホログラムに切り替える。コンソールにかけより、機関部に艦内部の損害情報の提示を求めた。
「損害は今のところありません。艦長があらかじめASDSをフル稼働するように命令なさっていましたので、十字ブイは順調に他宇宙を作り出しています。炉中心に向かうエネルギー流が一番の厄介ごとです。貫通しているエネルギー流のせいで、『葵』はどこにも動くことができません。前方放出塔に入ってきたエネルギー流を、ダイレクトに後方放出塔で処理しているために、本来の移動手段として使うことができないのです。どうすればいいのでしょう」
 どうすればいいのでしょうって、それを考えるのが機関部の仕事じゃないの。
「まあ、とりあえず様子を見ましょう。向こうが諦めるまで待つしかないようだから。私のかわいいASDSは、この程度の攻撃じゃやられないことを相手に知ってもらわないと。機関部は引き続き炉のチェックを怠らないようにね。進展があり次第連絡をちょうだい」
「了解しました」
 ふう。どうしようか。香織に連絡しようにも、こんな状態なら通信はノイズにしかならないし。『乱万』はこの攻撃でやられたのだろう。
 私は再び艦長の椅子に足を組んで座った。宮内は忙しそうにコンソールを操作している。
「宮内君、君はこの事態をどう見る?」
 私はきわめてのんびりとした口調で宮内に尋ねた。宮内は手を止めて、私の方へ振り返った。最初は私が何もしていないことに顔をゆがませた。しかし、すぐにもとの表情に戻る。
「芳しい事態ではありません。リング自体はこちらと同じAS炉と同じですので、エネルギーの枯渇はないと推測されます。しかし、こちらも状況は同じですので、エネルギーの枯渇の心配はありません。千日手です」
「どうすれば打開できると思う?」
 ためしに宮内に聞いてみた。
「この状況を作り出した本人に、やめるように言うしかないのではと思います。こんなことができるのはどこの国家でしょうか。とても人間の技術力とは思えません」
「人間じゃないのかもよ」
 それを聞くと宮内は心の底から驚いたような顔をした。宮内は近くにある椅子に腰掛けた。彼も急いでもしょうがないことに気づいたらしい。
「いままで、電波通信技術が発達してから400年間、一度も異星人とのコンタクトはありませんでした。アダムスミスのUFOから、SETIプログラムまで、私たちが宇宙で孤独な知的生命体ではないと信じられる情報は、すべて虚偽でした。これって、『ファーストコンタクト』でしょうか」
 宮内は意外とこっち方面には詳しいらしい。『ファーストコンタクト』がただの妄想でしかないと世間一般が思っている中で、アダムスミスのことまで知っているとは。私は宮内を見直した。
 人間、ひとつは他人に誇れるものを持っているというのは本当だったのね。
「艦長、『恒星間航行技術を持ってやってきている種族を、持っていない種族の軍隊が追い払うことは不可能だ』というのは本当かどうか、我々の『葵』で確かめられるのですね」
 宮内は不適に笑った。