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神々の狂宴

第5話

ASDS

 リングの幅、一万メートル。円周、三八〇AU。キロメーターに換算すると、五七〇億キロメートル。
 かつて、これほどまで巨大な構造物を、人類史上見た者はいないだろう。
 リングは、人類の困惑をよそに、今でも青白く光り続けている。
 まだ、五〇〇〇キロメートルほどの距離をとっているので、肉眼では青白いピアノ線のようにしか見えない。青い輝線が宇宙を半分に切り分けているようだ。あまりにも巨大で、それが円だということは判別できない。まっすぐにしか見えない。
「『乱万』の年賀艦長、異常はないか?」
「ないでありますっ。目下全て正常ですっ。他に何か御用はございますか?」
「いや、異常確認だけだ。しかし、艦長たるもの、そのようにへりくだってはいけないのではないか?もっと堂々としなさい」
 文民の私でも、年賀が必要以上にへりくだっているのがわかった。
「つつしんで努力しますっ」
 まったく口調は変わっていない。軍人は頭が堅いのだろうか。この二つの航宙艦で、文民は私一人だった。
「防衛指令室、ASDSの調子はどうだ?」
「すべて正常です。ASDSの強度は100%です。最大200%まで出力をあげられます」
 ASDS。Another Space Difence Shield。他宇宙防衛壁。桜伊の発明した新型と比べると、防衛力は格段に落ちるが、現行のあらゆる対航宙艦兵器を防ぐことができる。しかし、新型との最大の違いは、こちらはShieldであるのに対し、向こうはSystemであるということ。
 新型は、他宇宙自身で攻撃を吸収するが、旧型は、船体中心部のAS炉の放出するエネルギーを、船体を覆うEMFに流してシールドを作る、私が考えた防衛方法。
 私のASDSが実用化してから、わずか一年間で、桜伊は私よりも優秀なASDSを開発したのだ。
 私のASDSは、基本原理は簡単で、ある程度の技術と資材さえあれば作ることができる。防衛能力は、使用するAS炉の性能に依存する。二つの航宙艦のAS炉の性能は最高性能だ。
「年賀艦長。無人観測機のリングの材質分析はどうなっている?」
「一石長官っ。もう少し観測機を近付けていいですかっ?そうしなければ結果が出せません」
「わかった。二十五キロまで接近してよし」
「了解っ。3時間後には結果が出ると思います」
 年賀の威勢の良い声を聞いたあと、私はあらためてリングを見た。
 これは何のためにここにあるのだろう。明らかに自然にできた物ではない。かといって、人類にこれだけの規模の構造物を作る技術はない。
 考えるまでもない。
 異星人の手によるもの。
 太陽系外生命体。
 しかし、時期が悪かった。
 このような政況不安な時代でなければ、各惑星首脳陣は一致団結して問題を全力を尽くして解明しようとしただろう。有史以来、初めての知的生命体との接触がおきるかもしれないのだから。
 今、たしかに人類全体としては未曾有の繁栄をしているが、それは、各惑星間とのたえまない緊張状態と軍拡競争によって支えられている、砂上の楼閣でしかない。みな、自分達の惑星自身の問題を処理することで手一杯だった。
 圧倒的な科学力で政治的有利な立場にいるわが火星連邦でさえ、リングの調査に全力を傾ける余力は無い。
 くそっ。
 こんな機会は滅多に無いことなのに。
 世論は味方すれば、調査に全力を傾けられる。
 夜空にかかる光の筋に、興奮を覚えない者がいるとは思えない。

 三時間後、年賀はいきなり大写しになった。
「観測器による結果が出ましたっ。あれは物質ではありませんっ。他宇宙がリング状に融合されています」
 年賀の顔に続けて、観測機からのデータが表示された。芸術的に他宇宙が融合されていることが一目でわかった。思わず美しさに見とれそうになった。
 私は、どうやってリングが光速をこえる速度で形作られたのかがわかった。簡単なことだった。空間自体は光速度の制約を受けない。
 年賀は、こちらがデータの意味を受け止めたと判断して、再び話しはじめた。
「このリングのもっとも面白いところは、我々とは違い、絶対温度以外の物理定数もちがう宇宙との融合を行っているということです」
「万有引力定数や、光速度定数もか?」
 その二つの定数の違う他宇宙とは、今のAS理論では実現不可能と考えられていた。
「はい、そのようです。……。ちょっとお待ち下さい。観測室が新しい報告をするようです」
 年賀はスクリーンの中で下をむき、何やら話している。音声チャンネルは閉じられている。年賀は話しながらみるみると興奮していき、最後には、こぶしで観測室との通話スイッチを叩いたらしかった。年賀はこちらを見て、深呼吸してから話しはじめた。
「一石長官、リングに変化が現われました。高エネルギー反応の予兆を示さずに、リングは観測機を高エネルギー粒子で破壊しました。リングの射程距離の見当はつきません。我々も射程に入っているかもしれません。今から『乱万』は、特別警戒体制に移らせていただきま………」
 そこで映像は途切れた。私はコンピュータにあわてて指示を出す。
「どうしたっ?メインスクリーン、『乱万』を映せ。特別警戒体制!ASDS200%!」
「『乱万』は交信不能。こちらのあらゆる機器が、磁気嵐によって麻痺。一時的な物と思われます。すこしお待ち下さい。サブ機能に切り替えます……。切り替えました」
『乱万』は、リングの一点から放出されたエネルギー流を、ASDSで滝を防ぐ傘のように防いでいた。そこで弾かれたエネルギーが、こちらの機器を麻痺させたに違いない。
 リングの色とは違い、強烈な白色光。ASDSがめまぐるしく色を変えている。前方に当たったエネルギー流は、卵型に船体を覆うASDSにそって流れ、リングのちがう一点に流れ込んでいるようだった。 

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